7月27日の経済トピックスをお届けします。来月8月5日からいよいよ始まるリオデジャネイロオリンピック。会場や宿泊施設の建設進捗のみならず、公共交通機関の整備や治安、医療、衛生面で未だに数多くの不安を残すブラジルですが、政治・経済面ではどのような局面を迎えているのか追ってみました。

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実は汚職まみれだったブラジル政権

時は少し前に遡って2016年5月12日、ブラジルの上院はジルマ・ルセフ大統領(68)に対する弾劾手続きの継続について賛成多数(賛成55、反対22)で可決しました。

これによりルセフ大統領は180日間の職務停止となり、ミシェル・テメル副大統領が大統領代行として政局運営に臨む形となりました。

ルセフ政権については、政府系の世界的石油会社のペトロブラスをめぐる巨大なマネーロンダリングや収賄容疑で彼女の所属する労働者党の多くの党員が罪に問われており、ブラジル国内におけるビジネスリーダーや政治家の多くがこのスキャンダルに巻き込まれるという、前代未聞の展開となりました。

ルセフ大統領自身も政府会計を不正操作したとして強く非難される立場にあります。

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ブラジル初の女性大統領として国内外から耳目を集めていたジルマ・ルセフ大統領であるが、強烈な弾劾手続きを踏まえ失意の職務停止に陥った。

ルセフ大統領の選挙参謀でもあるジョアン・サンターナ氏政府系の石油会社のペトロブラスに対し水増し請求を行い、数百万ドルにものぼる多額の賄賂資金を得たという疑惑が持ち上がり、この資金が2014年のルセフ大統領が再選を果たした選挙の資金に流れたとされました。

彼女自身はブラジル国内過去最大の汚職事件において直接的には罪に問われてはいませんが、数多くの政府系高官が資金洗浄捜査の対象となっており、当時のブラジル国内の不況も相まって国民のルセフ政権に対する不満は頂点に達し、300万人を超える反政府デモが全土で勃発するまでに至りました。2015年3月15日の出来事です。

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当局の意地をかけた汚職一掃作戦:その名も「ペレーション・カーウォッシュ(洗車作戦)」

数日後国民の怒りはルセフ政権だけでなく、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ前大統領にも向けられました。

これはルセフ大統領が2016年3月17日、汚職事件の渦中にあるシルヴァ氏を、官房長官として指名すると決めたためです。

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ブラジル当局はこの問題に対して徹底的な捜査に乗り出すとして、「ペレーション・カーウォッシュ(洗車作戦)」と名付けました。

シルヴァ前大統領がやり玉に挙げられた背景には、この洗車作戦を指揮しているパラナ州連邦地裁のセルジオ・モロ判事によって、ルセフ大統領が、ルーラ前大統領を起訴から守るためにポストを与えたことを裏付ける録音データが公表されるに至ったことが挙げられます。

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まるで役者顔負けの端正な顔立ちをしたセルジオ・モロ判事。前代未聞の巨額汚職事件に対して、捜査の手を決して緩めることはなかった。

ブラジルのテメル暫定大統領は、いちはやく財政健全化策を公表

ルセフ大統領の180日間に渡る職務停止により、ミシェル・テメル副大統領(75)による暫定政権が発足して約半月後、具体的な政権運営に進展するや否や、混乱を極めるブラジル国内の財政再建に向けた手段を一挙に打ってでます。

5月12日 テメル暫定政権の就任閣僚人事公表
5月20日 2016年の修正財政目標の公表
5月23日 ロメロ・ジュカ企画・予算管理相が一時的に離職
5月24日 メテル暫定政権が財政健全化策を公表
5月25日 ブラジル議会が2016年の修正財政目標を承認

途中ロメロ・ジュカ企画・予算管理相が汚職捜査への妨害疑惑から一時的に離職するなどの逆風があったものの、たたみかけるような勢いで短期間のうちに財政健全化策を公表するに至り、翌日にはブラジル議会から承認を受けるなど、テメル暫定政権の政策運営の求心力を測る試金石となりました。

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慎重かつ老獪(ろうかい)とも噂されていたミシェル・テメル副大統領は、難局打破のための巧みな指導力を発揮した。

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運用会社の見解:注目すべきポイント

ピクテ投信投資顧問によると、今後テメル氏率いる暫定政権がブラジル経済を回復できるかどうかに焦点を当てた場合、次の点に注目が必要と指摘します。

  1. 人事面すなわち組閣の顔ぶれにおいてはプラス要素が多く、財務相に任命されたエンリケ氏をはじめとして、市場に歓迎されるような財政健全化政策の屋台骨を担うと期待できる。
  2. 省庁の統廃合を進め、必要に応じて民間部門の活動余地を広げるといった政権運営の合理化は市場も前向きに評価すると考えられる。
  3. 議会内の抵抗勢力に屈することなく、暫定政権が構造改革に一枚岩で取り組めるかどうかが重要なポイントになる。

ピクテ投信投資顧問:今日のヘッドライン

ブラジル株式は急上昇:市場はひとまずテメル暫定政権を受け入れる形に

今年に入ってからブラジル株式は急上昇を続けています。

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この主な理由は2つあります。

まず第一に原油や商品価格に持ち直しの兆しが見られたことです。

そして今回の弾劾手続きがこのまま続き、8月で最終的な審議を迎え政権交代が確実のものとなった場合、これまでの課題であった経済や財政の立て直しが進むのではないかとの期待が高まったためです。


足元ではひとまずの一服を迎える形となったものの、今後テメル大統領政権に移行した場合には、長年、同国の成長の足かせと言われてきたいわゆる「ブラジル・コスト」の低減が期待できる。

ブラジル・コスト」・・・複雑で負担の大きい制度や労働・雇用関連の過剰な優遇措置、不十分なインフラによる流通コスト高などを指す。

メテル氏の出身政党は改革志向の強い産業界寄りの政策を提唱しており、こうした改革が議会で支持され実行されていけば、ブラジル経済にとって積年の悩みの種であった「ブラジル・コスト」の圧縮に関心が集まると考えられる。

ピクテ投信投資顧問:ボンジュール

ブラジル景気は最悪期を脱しつつある模様

三井住友トラスト・アセットマネジメントによると、足元のブラジルの景気動向は、2016年1-3月期の実質GDPが前期比-0.3%と5四半期連続のマイナス成長となったものの、景気は徐々に最悪期を脱しつつある模様です。その主なけん引役は輸出の伸びであると指摘します。

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もっとも、内需に目を転じると、民間消費や設備投資などは依然として低迷が続いています。

今後、ブラジル景気が回復局面に移行するには、インフレ鈍化に伴う金融緩和やテメル暫定政権の各種政策対応によって、消費者や企業のセンチメントが改善に向かうことが必要と結論づけています。

政策金利据え置き:レアルは堅調な展開に

さらにブラジル中央銀行は7月20日に開かれた通貨政策委員会で、市場の予想通り、政策金利を14.25%に据え置くことを決定しました。

これで8会合連続しての据え置きとなります。

この背景には、物価が高止まりしている(インフレ鈍化)ため、金融政策を緩和する余地はないとしての判断がありました。

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今後の展開:ブラジルレアルは堅調な推移

こうした傾向を受けて三井住友アセットマネジメントでは、ブラジル国内への資金流入期待が再燃し、通貨レアルも堅調な推移を示すとみているようです。

  • 原油を始めとする資源価格が上昇し、世界的に株価が回復していることによる投資家心理の改善米国の利上げ観測の後退に伴う新興国への資金流入期待がレアルを上昇させ続ける要因になっている。
  • 今後の市場の焦点は、リオデジャネイロ五輪が迫る中、ルセフ大統領の停職を受け発足したテメル暫定政権が政治的安定をどこまで取り戻せるかに係る。

三井住友アセット・マネジメント:マーケット・デイリー

過去稀に見る巨額の汚職事件が明るみに出たことにより、一国の大統領が失職するのも秒読み段階に入ったと目されるブラジルですが、逆に政局さえ安定さを取り戻せば最悪期にある景気も回復するだという期待が市場にはあるようです。

(編集部より)

7月27日、ルセフ大統領は停職中である自身の立場を案じ、8月5日のリオデジャネイロ五輪の開会式に出席しない決断を下したとしてお茶の間でちょっとしたニュースとなりました。

五輪開催国の現役の大統領がたとえ停職中であるとはいえオリンピックの表舞台に姿を現さないとは、ひょっとすると過去に例をみないのではないでしょうか。

執筆している7月28日現在でも、未だにリオデジャネイロではジカ熱や豚インフルエンザの感染も懸念されており、選手村の宿泊施設ですら十分に整備しきれていない状況ですから、これまでのブラジル政府の杜撰(ずさん)さと言いますか、闇の深さと言いますか、よくぞ開催国になれたなとかえって不思議なくらいです。

とはいえ国内経済は持ち直しつつあるというわけですから、五輪閉幕後の一時的な景気の落ち込みがあったとしても、政治面での混乱が一服すれば中長期的には海外からの資金流入も加速し、それが新興国市場の全体を刺激するといった可能性もあるのかもしれません。