7月15日の経済トピックスをお届けします。ドル円が105円を回復し、英国の国民投票前の水準まで戻ってきました。そんな最中、ここへ来て「ヘリコプターマネー」というばらまき政策が浮上してきています。デフレに悩む日本にって果たして吉と出るのでしょうか?

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ヘリコプターマネーとは、政府の景気刺激策の1つとして紙幣増刷すること

ベン・バーナンキ氏という世界的に名の知られた人物がいます。

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前FRB(米連邦準備制度理事会)議長でもあり、アメリカを代表するマクロ経済学者です。

彼は1930年代の大恐慌・日本の平成不況の研究で名を成しており、今のアメリカ経済はバーナンキの存在なしには語れないとも言われるほどです。

そんなバーナンキ氏ですが、在職時代は量的緩和を立て続けに打ち出し、百年に一度の危機とも言われたリーマンショックに対処した人物としても知られています。

(もっともリーマンショックの原因を作ったのも当の本人だと主張する説もありますが)

いずれにせよバーナンキは景気対策としての紙幣増刷、すなわちヘリコプターマネーの信奉者とも評されており、「ヘリコプター・ベン」という異名まで持ち合わせている人物です。

参院選で与党が勝利し、財政出動を伴う景気対策への期待が広がったタイミングで、バーナンキ氏が来日したことが世論でもヘリコプターマネーの期待が浮上し、円売り・ドル買いの材料になりました。

ヘリコプターマネーとは

ヘリコプターマネーとは、アメリカの経済学者であるミルトン・フリードマンが1969年の論文「最適貨幣量」で用いた表現です。

氏は通貨供給量が拡大した場合、どのように物価が上昇するかを、この論文で示しました。

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あたかもヘリコプターからお金を市中にばらまくがごとく、政府や中央銀行が国民にお金を配る政策で、政府の景気刺激策の財源を中央銀行の紙幣増刷で賄うことを指します。

実は先のバーナンキも日銀に対して「デフレ脱却のためならヘリコプターから紙幣をばらまけばよい」と述べた逸話もあります。

しかしながらこのヘリコプターマネーにも、一部慎重論が存在するのも事実です。

ヘリコプターマネーの懸念点

「ヘリコプターマネーとは、通貨の信任や、財政規律が失われることで、
ハイパーインフレを招きかねない禁じ手でもある」

果たして長期間に渡りデフレが続くわが日本において、ヘリコプターマネーは有効に作用するのでしょうか?

狙いどころは「物価上昇」。でもそこにはリスクがある

三井住友アセットマネジメントによると、ヘリコプターマネーを政策推進した場合には確かに物価情報も期待できる反面、一方でそでに歯止めが効かなくなり、悪性のインフレーションを巻き起こす可能性があると指摘します。

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「ヘリコプター・マネー」を実際の政策として強力に推進した場合、物価は上昇する可能性がある

しかし中央銀行が政府から直接国債を引き受けることで、財政規律が緩んで紙幣が増発されると、物価上昇に歯止めがかからなくなる場合も考えられる。

その結果、悪性のインフレを引き起こす恐れも指摘し得る

そのため、先進国では中央銀行による国債の引き受けを禁止しており、これは日本においても例外ではない。(財政法第5条)

(三井住友アセットマネジメント)

日本には有効と見る向きも?

アベノミクスの政策方針として日本の景気対策と財政出動は以前より謳われていますが、ここのところ日銀の黒田バズーカも空砲とも言われるなど、財政政策や金融政策の限界が懸念されつつあります。

そんな中において、日本のようにデフレと低成長に苦しんでいる国にとっては、ヘリコプターマネーは最後の手段として有効との見方もあります。

財政政策の長所・短所比較

量的緩和 日銀が進める債券購入等の量的緩和策は、短期金利だけでなく長期金利も低下させることで、企業や個人の借入を促進し、消費を刺激することを狙ったものであり、需要がなくなれば効果が薄まるというデメリットを抱える。
財政出動 その名の通り政府にとって将来返済しなければならない借入が増えることになる。その結果、将来的な増税が予想され、家計がそれに備える形で消費を控える場合も考えられる。
ヘリコプターマネー 直接的に資金手当てを行うことにより、物やサービスの購入に結び付きやすい。増税回避案としては、償還期限のない永久国債を国が発行し、日銀が引き受けるスキームなど妥当。

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ヘリコプターマネーには悪性のインフレを起こすリスクがありつつも、財政規律に配慮することで資金供給量をコントロールすることが成否の分かれ目になるようです。

財政出動と金融緩和の保険か?ヘリコプターマネーの立ち位置

あくまで安倍政権は円安定着を図る鍵として経済対策を打ち出し、それに呼応するかのように日銀も異次元とも言われる金融緩和策でデフレ脱却、景気浮揚を狙ってきました。

しかしながらマイナス金利にも踏み込むことになった金融政策にはおのずと限界があり、財政出動をどう切り開くのか、足元では石原経済再生相による経済対策の報告が待たれます。


7月28日から29日にかけて日銀の金融政策決定会合が開かれますが、果たしてヘリコプターマネーという第三の切り札まで踏み込めるのか、注目が集まります。

そうは言っても非現実的とみる見方も

実は今年4月に黒田総裁、ドラギ総裁はともにヘリコプターマネーに言及し、いずれも否定的な見方を示しています。

「我々はヘリコプターマネーについて、全く考えていないし、議論したことがない。」

と明確にその選択肢を否定しています。

同様に日興アセットマネジメントが発行する神山レポートでも以下のような言及がなされています。

黒田総裁が言うとおり、そもそも「ヘリコプター・マネー」は金融政策を決定する中央銀行と財政政策を担う政府との役割が曖昧になってしまうため、現行の財政法などでの実行は難しい。

「ヘリコプター・マネー」は興味深い概念と考えるが、いまのところ具体策として捉えなくてもよさそうだ。

長期的な観点からは、世界経済が大きく後退した場合に導入される可能性は排除できないが、短中期的に導入されるとは想定しづらい

(日興アセットマネジメント:神山レポート)

その一方でしんきんアセットマネジメントでは、

投資家心理の改善とドル高・円安を受けて、日経平均は5営業日続伸した。この背景には、「ヘリコプター・マネー」への期待も下支えしていると思われる。

さらに15日には「ヘリコプター・マネー」への期待から、一時ドル円相場も106円まで上昇した。

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7月は月末の日銀金融政策決定会合に向けて「ヘリコプター・マネー」の思惑で、日本株も為替相場もかく乱される可能性がある。

(しんきんアセットマネジメント:来週7/18~7/22の金融市場の見通し)

各社思惑が揺れる中で、果たして黒田総裁はヘリコプターマネーに関する新たな見解を示すのでしょうか。