7月12日の経済トピックスをお届けします。ブレグジットでEU離脱が確定的となったイギリスでは、マーガレット・サッチャーに続くイギリス史上2人目の女性首相が誕生します。テリーザ・メイ氏に課せられた課題とは何なのでしょうか。brexit

英国新首相決定へ:意外にあっさりしていたレッドソム氏の選挙戦撤退

去る7月11日、英国の次期首相を選ぶ英保守党党首選で有力候補のメイ内相(59)と争っていたレッドソム・エネルギー担当閣外相(53)が、早々に選挙戦からの撤退を発表しました。

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口は災いの元・・・?失意のレッドソム氏

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仇敵の「自爆」でメイ氏はほくそ笑むのか?

撤退した背景には、レッドソム氏の軽率な失言があります。

「子供のいないテリーザ・メイ内相より、母親としての務めも果たしている自分の方が首相に適任だ」

アンドレア・レッドソム・英エネルギー担当閣外相

元々レッドソム氏には政治経験が浅い点が議員の間でも問題視されており、金融業界での経歴の誇張疑惑や相次ぐ失言などが響き、英タイムズ紙に掲載した自らの失態が命取りとなりました。

レッドソム氏の失言に対する英国民の反応は?

bbc

BBC放送局によると「子供がいる母親の方が、良い首相になると思うか?」と問われたインタビューに対し、街の人々は以下のように答えました。

「とんでもない。一国のリーダーに求められる資質とは、チームとして働けるかどうかといった協調性であって、親であるかどうかは、首相になる要件ではないわ。」

「難しいね。確かに親であることが決定的に大事だとは思わない。けれども、家族を持っていることでプラスに作用することはあるかもしれない。例えば家庭生活の何たるかや、子供を育てるのに必要なこと、お金の問題も理解する手助けにはなるんじゃないかな。」

「子供を持つかどうかはその女性の選択でしょう?優れたリーダーになるかどうかの判断基準とするのは間違っている。子供のいない女性への差別だわ。」

「首相に求める要件に母親であることだって?たとえば育児や介護に関わる仕事なら、親であることを売りにできるかもしれないけれど、首相は関係ないわ。」

「親であることは首相としての資質に関係はない」と答えた人が多数でした。

さらにこの発言が「子を持たない人への差別に当たる」と憤慨した人もいるようです。

こうした世論を受けて立場の苦しくなったレッドソム氏は、最終的にメイ氏にキャメロン首相の後任の座を明け渡すことになりました。

「英国は大変な時期にあり、可能な限り早く新首相を選ぶことが国益だ。

メイ氏は強く、安定した政府を主導することができる。」

アンドレア・レッドソム・英エネルギー担当閣外相

少々苦しい開き直りのようにも見受けられます。

実はこれまで短期間で紆余曲折した英国首相選挙戦

英国の離脱問題によりキャメロン前政権が解散となった後、イギリスではブレグジットが引き起こす問題があまりに計り知れないものとして、「英国のリーダーシップに長く空白期間を置くべきではない」と、当初予定の9月9日に約2ヶ月先んじて、テリーザ・メイ内相が次期首相に就任することが決定しました。

本当は国民投票などやる必要はなかった

そもそも今回の国民投票は本来、実行する必要のなかったものです。

デービット・キャメロン首相が2013年、保守系の英国独立党(UKIP)などの気勢を削ぐために、国民投票を示唆したことがすべての始まりです。

その後、2015年のイギリス総選挙で勝つと、EUとの協定を改定の上、「残留か、離脱か」を国民投票で問う、ということになりました。

まさかキャメロン首相は国民が「離脱」を選ぶなどとは、少しも考えていなかったのではないでしょうか。

以下、この間の時系列を簡単に追います。

cameron 現地6月23日:国民投票により離脱派が勝利し、残留派のデービッド・キャメロン首相が引責辞任を発表

2001年6月から続いたキャメロン政権もついに幕引けに。

自分の余計な一言でまさかのEU離脱が決定した罪は重い。

国民投票などは、彼の慢心がさせた珍事とも言えるかもしれません。

jonson しかしキャメロン後任を選出する保守党党首選からは、順当視されていた離脱派のボリス・ジョンソン前ロンドン市長(現・下院議員)が不出馬を表明

世間を賑わす結果に。

盟友ボリスを裏切る形で離脱派のマイケル・ゴーブ司法相が党首選に出馬表明していたのが一因とされますが、だいぶ心身喪失してしまったのでしょうか。

Michael_Gove_Minister ところがこのマイケル・ゴーブ氏。思うように世間から支持を得られず空回る結果に・・・。

いったい何がやりたかったのでしょう?

redsom 事態はテリーザ・メイ内相とアンドレア・レッドソム・エネルギー担当閣外相の女性候補2人による一騎打ちに。

しかしここへ来てレッドソム氏の発言が英タイムズ紙に掲載されるや否や、文字通り「炎上」してしまいます。

しかし一方でマーケットは元より彼女に対して懸念を示していた事実も。

彼女が仮に首相になった場合に、順当な手当ても踏まえずに即刻EU離脱に踏み切るという強硬姿勢が政局の混乱を招くのでは、という指摘が主流を占めていました。

Theresa_May_UK_Home_Office_(cropped) 結果的に無傷に残ったテリーザ・メイ内相が13日、マーガレット・サッチャーに続く英史上2人目の女性首相に就任します。

下馬評ではメイ氏が圧倒的優位という事前の憶測があったとはいえ、事の経緯からたぶんに「漁夫の利を得た」かのようにも見えるのですが・・・。

マーガレット・サッチャーが「鉄の女」と称されたことに対して、テリーザ・メイ氏にはどのような称号が与えられるのでしょうか?

こうしてみると英国もずいぶん病んでいますね。

男女入り乱れての役者の登場は、どうかすると東京都知事選を思わせるのは気のせいでしょうか。

メイ首相の双肩にのしかかるEU離脱の舵取り

今後2年に渡り欧州連合(EU)離脱を率いる仕事は、メイ氏の手腕に委ねられることになりました。

実はこのメイ氏。イギリスの国民投票ではキャメロン前首相と同様残留を強く訴えていましたが、国民投票後は、「離脱は決まったことである。あとはこれをいかに成功させるかが重要だ」と述べるなど国民の意思を尊重して離脱プロセスを進めるとの考えを示しています。

新首相による最初の決断は、「いつEUに対して、リスボン条約50条に基づく離脱を通告するのか」ということになります。

もしも離脱までに残された2年以内に離脱条件の交渉をまとめられなければ、その時点で何もないまま自動的にEU離脱となります。

第一の注目ポイント:EU離脱担当相の人事とその戦略

アガサクリスティーの小説にあるかのように、今となっては「そして誰もいなくなった」EU離脱派ですが、彼らの問題点は明確なEU離脱戦略を示していたと見られないことです。


メイ新政権にてEU離脱のための新設ポストから、具体的な青写真が示されることが期待されます。

第二の注目ポイント:議会内のEU残留派、離脱派の融和

国民投票で民意は示されましたが、実際には国民投票の法的拘束力は根拠に乏しいとも言われます。

EU離脱申請にあたり法的拘束力の付与をメイ氏は目指すものと見られますが、議会は残留派が多数で議会運営は相当に困難となる事態も想定されます

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先にも示した通り今のメイ氏にとっては、以下に問題を最小限に抑えてEU離脱を実現するかに力点を置いています。

今後残留派とどのような合意点を形成していくのかが注目されます。

第三の注目ポイント:英国とEUの交渉内容。移民抑止と単一市場へのアクセスの相克する矛盾

第三のポイントは最も重要です。

メイ氏は移民問題を念頭にこれまで「人の自由な移動を終わらせる」ことを熱心に唱えてきました。

ところがその一方で、英国が欧州単一市場にアクセスして、財・サービスの貿易を可能にすることを優先するとも述べています。

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EUからしてみれば「いいとこ取り」です。この矛盾する2つの主張をそのまま推し進めれば、EUとの交渉は暗礁に乗り上げることも懸念されます。

市場の反応も冷ややか

こうしたことから事態が困難な問題を抱えているだけに、予定より2ヶ月も前倒して英国首相の就任が決まったにも関わらず、ポンドも小幅な反応に留まりました。

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メイ氏はかつての「鉄の女」のような強靭な指導力があるタイプではなく、どちらかと言えば融和性を重視する傾向にあると言われています。

2年に渡るEU離脱プロセスは、果たして理想的な結実へと導かれるのでしょうか。

(編集部より)

確か以前マーガレット・サッチャーの姪に当たる方だったと思いますが、かつての「鉄の女」の現在が認知症に悩まされていることを語られていた記憶があります。

自分自身がイギリス国家の首相として、時代の寵児と世界中に名をはせていたことももはや忘れてしまったと嘆いておられました。人の人生について、考えさせられるエピソードでした。

一方でサッチャーを陰で支えていた夫である故・デニス・サッチャー氏の人柄についても語られていたと記憶します。

世間では妻の尻に敷かれている情けない男という不名誉な評判を得ていましたが、その実態はマーガレットの政治活動についても助言を行い、妻は夫の助言に素直に従っていたが、あくまで家庭内での夫婦関係に留め、これを公にせず、賢い妻に対して愚かな夫であるように演じていたと言われています。

「鉄の女」に関するエピソードには、とても興味深いものがありますね。

こうしたマーガレット・サッチャーに関する栄光と影については、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」という映画が有名です。「強き女性」と「内気な王」の知られざる対話に思わず涙が誘われます。